コーティングの水締めについて

「水締め」についての考察 〜コーティング施工の本質を考える〜

最近、「水締め」と呼ばれるコーティング技術が、まるで禁断の秘技であるかのように特別視され紹介されるケースが増えております。また、お問い合わせの際にも「禁断の水締めで施工しております」といった表現をよく見かけるようになりました。

しかしながら、「禁断」とは「行ってはいけない」という意味を持つ言葉です。
実際には「水締め」は単なる施工の時短作業の一つであり、その本質を誤解して過剰に神秘化することは避けるべきです。

1. 湿度は必要、しかし「水」は別物

コーティングの硬化には適度な湿度が不可欠ですが、「水締め」という言葉が最近注目されています。

しかし、この「水締め」の意味合いは、もともと建設業の工法から来ているもので、土や砂を水で締め固める方法です。

コーティングにおける「水締め」は、強制的に水を加えて硬化促進を図る手法とも言われていますが、水分厳禁の製品には絶対に適用できません。


2. 当店のスタンス:品質重視、無理な短縮はしない

当店では自動車業者様からの依頼は少数派です。

理由は「安く早く」を求められるケースでは、温度・湿度管理や適切な乾燥時間が無視されるため、良質な施工が困難だからです。

たしかに、これらの管理を無視すれば施工は2〜3時間で終わりますが、それは「コーティング本来の良さ」とはかけ離れたものとなります。


3. 「水締め」思考の落とし穴

マニュアルを読み込むほどに、「水をかければ硬化が進む」といった短絡的な理解に陥りがちです。

しかし、コーティング施工において本当に重要なのは、**施工直後の“適度な湿度の維持”**です。
これは加水分解の反応を穏やかに進め、塗装面とコーティング被膜の密着性を高めるための条件でもあります。

逆に、水を直接かけてしまうような作業は、製品ごとの化学特性や反応速度を無視した行為であり、
・被膜内部の反応不良
・ムラや白濁の発生
・硬化不良による早期劣化
といったトラブルの原因になりかねません。


✅ 理解すべきは「反応の環境条件」

適度な湿度とは「表面がじんわりと反応を続けられる状態」であり、水そのものを与えるのではなく、環境を整えるという発想が必要です。

マニュアルの一文だけを切り取らず、製品の理論背景や施工環境を踏まえた本質的な理解と判断力が、コーティングの品質を大きく左右します。

下記の様なスチーマーを使って水締めとして行った場合

温度計が示しているのは「その場の一時的な表面温度」であり、スチームで温めてもすぐに元のパネル温度に戻ってしまうため、表面の短時間の高温は硬化促進としてはあまり効果が見込めません。

硬化に影響を与えるのは持続的かつ均一な温度管理であり、一時的な表面温度の上昇は、温度計で測れるほどの時間継続しないため、実際の硬化反応にはほとんど寄与しないと考えられます。

また、スチームによる加温が水蒸気であれば、表面温度は最大でも100度前後にしかなりませんし、湿度や蒸発により温度上昇がすぐに収まるため、施工環境としては安定した「常温」が適切です。

そのため、無理に温水やスチームで温めるよりは、施工ブースの温度を一定の常温に保ち、パネル温度を適切に管理する方が、コーティングの硬化や性能安定に効果的と考えます。

カーボンヒーターによる焼付処理なのです。

まとめて「冬期間及び低温施工を余儀なくされる北海道におけるコーティングの注意事項」



1. 科学的根拠:硬化反応と温度の関係

  • 硬化反応は化学反応の一種で、反応速度は温度に依存します。一般的に、温度が上がると分子の動きが活発になり反応速度も速くなります(アレニウスの法則)。
  • ただし、温度上昇は持続的かつ均一であることが重要。一時的に表面温度が50℃になっても、すぐに元に戻るような環境では反応促進の効果は限定的。
  • スチームや温水は、表面の一部を瞬間的に温めますが、車体パネルは熱容量が大きく、周囲の空気温度や素材の冷却効果により温度は速やかに下がるため、持続した加温効果は難しい。
  • 湿度も硬化に影響する場合がある(例えば湿気硬化型のコーティング)。過剰な湿度や水分があると硬化が不均一になるリスクもあるため、施工時の湿度管理も重要。

2. 具体的な施工温度管理の手法

  • 施工ブースの環境設定
    温度は概ね15〜25℃の範囲で管理。湿度は40〜60%程度が理想的。これによりコーティング剤の化学反応が安定。
  • 事前のパネル温度確認
    赤外線温度計などでパネル表面温度をチェックし、施工適温であることを確認。日光直射や極端に冷たい状態は避ける。
  • 持続的な温度維持
    エアコンや暖房設備を用いて施工ブース内の温度を均一化。スポットでの加熱(スチームなど)は表面温度のムラを生みやすいため注意。
  • 乾燥・硬化促進機器の利用
    遠赤外線乾燥機やヒーターを用いて適切に硬化を促進。ただし過熱による素材ダメージやムラに注意。
  • 湿度コントロール
    加湿器・除湿器の使用で湿度を管理。湿度が高すぎると硬化不良や白濁の原因になることも。

ここまでのまとめ

一時的な高温よりも、施工環境全体の温度・湿度を安定的に管理することがコーティング硬化と品質にとって重要です。

瞬間的なスチーム加温は温度ムラや湿度上昇のリスクがあるため、できるだけ均一で適温の常温施工環境を整備するのが理想的と言えます。

よくある説明




相談者

コーティングの際に水締めをすると聞きましたが‥

一般のコーティング屋さん

当店のコーティングは水締めを行うため、焼付処理は必要ありませんし、硬化が早いのですぐに納車出来ます。その手法を「禁断の水締め」と言います。

相談者

水を使えば固まると言う事ですか?

一般のコーティング屋さん

はい、硬化を促進する場合に水を使います。

カービューティープロ札幌ドーム前 店長

水を使って硬化?
水を使ってコーティングを拭き取る??

湿度を上げて初期硬化の促進は理解出来ます。その水分をタオルで拭いたらせっかくのコーティング皮膜が薄くなりませんかね?

レベリングの問題はどうした?


この行為は余剰成分を拭き取ると言った一連の作業工程なのは理解できますが、そんな都合の良いコーティング剤はありえませんので、コーティング=水弾きとしか考えられない場合は有効な手段として思い込んでいるのでしょうね。

業界歴20年以上の研磨職人「TANAKA」

初期硬化を湿度を上げてと言うのは理解できますが、水を使って拭いたらコーティング層が薄く、又は無くなりますよ。撥水基は残るかもですが‥

店長

水で固まるのであればコーティング剤を水に落とすと、そのまま硬化すると言う事になりますよね。固まります?? 溶けて広がると思いますよ。





いろいろな言葉はありますが、しっかりした根拠を考えられないとならない例です。

気を付けましょう

コーティング施工時の温度・湿度管理について

※ここでは硬化するコーティングについて記述します。

施工温度は「常温」を想定

基準となるのは主に関東圏の環境で、
温度は20〜25℃前後、湿度も適度に高い状態が基準となっています。


関東の梅雨時期は特に注意が必要

  • 湿度が高いため、硬化速度は速くなるが、
  • その結果として 白濁(白っぽい仕上がり) が発生しやすい。
  • 白濁が起きると、研磨による被膜除去と再施工が必要に。
  • そのため、エアコンなどで温度・湿度の管理を行うことが必須。

冬季の注意点(特に東北・北海道)

  • 冬は湿度が低く乾燥しているため、湿度管理は比較的容易。
  • しかし、施工時のパネル温度が不足しやすい。
  • また、施工後の乾燥・エージング時の温度も不足しやすい。
  • そのため、暖房設備は必須。

ジェットヒーターの問題点

さらにパネル温度は適正に上がらず、コーティングには不適切な環境に。

東北や北海道でよく使われるジェットヒーターは燃焼型。

大量の灯油を燃やすため、湿度が急激に上昇し過ぎる。

結果的に梅雨時期のような高湿度状態を作ってしまう。


まとめ

真のプロフェッショナルは、短期的な利益よりも、長期的な品質とお客様の満足を最優先に考えます。

コーティング施工で最も重要なのは、適切な温度と湿度の環境を安定的に維持することです。

「水締め」と呼ばれる強制的な水分添加は避けるべきです。

安く、早く済ませることだけを重視した施工は、結果的に品質を犠牲にするリスクが高いことをご理解ください。

コーティングの環境について

〇常温での施工(16度以上26度未満)

〇水ではなく適正な湿度が必要(高すぎても低すぎてもNG 約40~50%)

〇外気温にもよりますが2~3週間は雨に当たらない工夫が必要